感謝の形は、人の数だけあります。
家族や友人、職場の人、あるいはすれ違う見知らぬ誰かに。
日々の中には、さまざまな人と、さまざまなかたちで「感謝」を伝える瞬間が、多く存在しています。
そのなかで、私がデザイナーとしてできる最大の「感謝の表現」は何か――
それは、まだ誰も見たことのない世界や、これまで触れたことのない価値観を、伝え届けることだと考えています。
手紙や贈り物、お金といった様々な手段がありますが、私にとっての感謝の本質は、私自身が積み重ねてきた経験や学びを通して、何か新しい視点を分かち合うことです。
それこそが、時代を超えて受け継がれてきた感謝の本質であり、私が創作を続ける理由でもあります。
そんな思いを込めて、私はひとつの作品を描きました。それは、私が10年もの間、考え続けてきたテーマをようやく形にしたものです。
ポーラーコーディネート / Polar Coordinates
絵は平面つまり二次元で描かれています。しかし私達は立体(3次元空間)に存在しています。
平面に描かれた絵を、「平面のまま立体にする」ことが出来ないか?
このテーマから今回の作品は出発しました。
一般的な絵画とは異なり、極座標系という数学的な考えに基づいた構図を用いています。そこに、シミュラクラ現象(※)を複合した絵にしました。
絵でありながら、数学的な理論世界を絵で表現し、生態的錯覚作用を入れたものを作りたいと思いこれを描きました。また、この理論で描かれている絵が探しても存在しなかったので、描く意義を感じて現実化してみました。
この理論に基づいた作品がこれまで存在しなかったこともあり、それを自らの手で初めて形にすることに、大きな意義を感じました。
デザイナーとして私は、「見慣れた世界の中に潜む、まだ誰も気づいていない構造美」や「人間の知覚の限界を問いかけるような視点」を届けたいと考えています。
つまりこの作品は、“感覚と理性の接点”を探る試みでもあります。
(※)シミュラクラ現象とは、雲や模様などに人の顔を見出すような、人間特有の認知現象です。
Kazuhiko Tomiyama